スペシャルティコーヒーはなぜ「標高」が大事なの?
お久しぶりです。
前々回は、スペシャルティコーヒーに於いて光合成がなぜ大事なのか?
前回は光合成はどうしたら増えるのか?
とまぁ簡単に書いていたわけです。
「しかし光合成が多ければ多い程よいなら、暖かい低標高で栽培すればよいのでは?」
という疑問に答えられません。
というわけで今回はなぜ標高が大事なのかについてまとめてゆきます。
(私見を大いに含んでいるのでお気を付けください。)
・光合成と呼吸
さんざん書いていることですが光合成とは
空気中の二酸化炭素を取り込み、酸素を排出する働きです。
ですが植物も光合成だけでなく呼吸もしています。
光合成とは逆で、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。
光合成は光をうまく用いて同化生産物を作り蓄えたのに対し、
呼吸では蓄えた光合成生産物を分解しを放出しているわけですね。
エネルギー蓄えて、放出してということですかね。
たくさん光合成をして素晴らしい風味を蓄えているのに、
たくさん呼吸をしてしまったら、それらの風味は消費されちゃうわけです。
我々コーヒーラバーからしたら非常にもったいないわけです。
・光合成には光が必須
光合成の温度依存性については前回取り上げました。
コーヒーの場合日射量よりも温度依存が強いのでは?みたいな話も取り上げましたが、光合成には光が必須なのです。
では1日24時間の間において最も光合成量が減る時間はいつでしょうか?
あたりまえで、夜です。
太陽からの光が無い為、光合成が出来るわけありません。
夜間に植物は光合成をせず呼吸をしています。
呼吸は昼夜問わずに行われていますが、日中では光合成量が呼吸量を大きく上回っています。しかし夜になるとほとんど呼吸のみになってしまいます。
日中は沢山のエネルギーを貯めこみ、夜間にこのエネルギーは消費されてしまうわけですね。
私たちからするとこの夜間の消費がもったいないわけです。
・呼吸速度
前回に光合成の温度依存性についてまとめましたが、これは呼吸にも言えます。
呼吸も酸素濃度や温度の影響を受けます。
酸素濃度が高ければ呼吸量が多くなるでしょうし、同様に温度が高ければ呼吸量が多くなることです。
・呼吸速度を落とすには
では夜間の呼吸量を低下させるためには酸素濃度を低くするか、温度を低くすればよいわけですね。
酸素濃度を低くするのはまぁ現実的に考えて無理ですね。
では温度を低くするのはどうでしょうか?
寒い地域ならば温度が低いです。
しかし寒い地域での栽培は光合成量も減らしてしまいます。
では昼が温かくて、夜が寒い環境で栽培すれば解決です。
この答えの一つが標高なのかと考えます。
昼は暖かく光合成が増大させ、夜は寒く呼吸量を減少させる。
このような1日のサイクルは理想的に思えます。
・寒いと元気がなくなります。
夜間寒ければ寒い程、呼吸量は減るわけです。
まぁ限度はあります。
このことは夜の気温が定期的に約10℃に低下する高地では、コーヒー生産に対し高収量が望めないことを示唆している。このことから、著者は、夜の気温が定期的に10℃に低下するコスタリカの高地で、なぜコーヒーがもはや生産されないのか、また、企業栽培が、年平均気温が18℃以下の所でできないかを説明できるとしている。
(山口禎 (2000), ”コーヒー生産の科学(第5章)コーヒーの生育と環境(1)” 食品工業 = The Food industry 43(10), p70)
実験では12時間の低温に晒したコーヒーの光合成が減るのみならず、回復にも数日かかることが書かれています。
100m標高が高くなると0.6℃気温が下がると言われます。
標高が高すぎると昼間の光合成も低下し、夜間の低温リスクも増してしまいます。
「標高が高ければ高い程良い」と思っている方もチラホラ見かけます。
そもそもの平均気温が高い赤道付近の生産国には当てはまっているかもしれませんが、赤道から離れた生産国では必ずしもそうとは言えません。
・成熟期間
以上により夜間の呼吸がストップすることから、結実から成熟までの期間が長くなるんですね。
ワインの世界では「ハングタイム」という言葉があります。
結実から収穫までの期間のことを指します。
したのブログがわかりやすいです。
ピノ・ノワールの美しさを再発見!控えめで繊細で偉大なワインをつくるフュルスト醸造所 - 趣味のワイン | ワインの通販 COCOSのブログ
ブドウの成熟度やハングタイムのついてのデータはたくさんあり、さすが歴史の長い飲み物だなぁと思わせれます。
もちろんコーヒーでも成熟期間に栄養を得ているみたいです。
ベリーが充実している間、豆の内乳は、強力な受容器官(sink)として働き、樹や果皮の発育部を犠牲にしてまでも、全同化産物の70%以上を引き寄せる。最初は同化産物の多くは、果肉の形成に用いられるが、開花後23週から32週にかけては、豆が大部分を吸収する。
((1985)Cannell, M.G.R.: Coffee p.122~126)
とまぁ成熟期間が大事そうです。
この成熟期間が長ければ長い程、同化産物をより蓄えるといってよいのでしょうか?
一応このような論文もありました。
また標高と感応試験的な相関性も以下の論文で扱っているようです。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308814612010333
あと堀口珈琲さんの本でこんなページとか、
(2023, 堀口俊英, "新しいコーヒーの基礎知識", P66)
・思ったこと
ハングタイムを延長させるに、栽培エリアを限定することは重要でしたが、
ブラジルで一部行われているドライ・オン・ツリー(DOT)とかも面白いですよね。
「 Dried On Tree(DOT)(ドライ・オン・ツリー)」は、コーヒーチェリーが熟してもあえて収穫せず、樹上でカラカラになるまで乾燥させるプロセスです。乾期に全く雨が
降らない気候特性を利用したBAU農園独自の製法で、トミオ・フクダ氏のコーヒーの代名
詞として日本で、長年愛されてきました。バレ・ド・クリスタル農園では2022年にはじめての収穫をむかえ、日本向けにDOTを生産しました。
樹上乾燥という特殊な収穫方法ゆえに、DOTは品種を選ぶ手法だと言います。乾燥時に風邪でチェリーが落下しやすい品種もあり、加えて病耐性や生産性など品種の適性を見極める必要があります。今回のサンタローサ品種は、レッドカトゥカイ品種のコーヒーの木の中から優れたものをトミオ氏が独自に選抜した品種です。
できるだけ成分を送り込みたいとの強い意志を感じます。
逆の発想ももちろんありまして、また3年前ぐらいにMoPlacoの試験的なエチオピアに、わざと完熟させないで収穫したコーヒーがありました。特徴的な酸のコーヒーで素晴らしい風味でした。このように成熟度をわざと高めないことによる風味づくりも今後増えてゆくと面白そうですね。
・誰か、ここら辺も読んでみて
Climatic factors directly impact the volatile organic compound fingerprint in green Arabica coffee bean as well as coffee beverage quality
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308814612010333
Effect of altitude of coffee plants on the composition of fatty acids of green coffee beans
https://bmcchem.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13065-020-00688-0
Effect of altitude on biochemical composition and quality of green arabica coffee beans can be affected by shade and postharvest processing method
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0963996917307858
Effect of altitude and terrain aspect on the chemical composition of Coffea canephora cherries and sensory characteristics of the beverage
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33058186/
僕は読みたくありません。
・まとめ
よく生豆インポーターの方が「標高から来る寒暖差によってコーヒーの木にストレスを与えると美味しくなる」と表現してます。なんだか曖昧な表現だなぁと思っていましたが、呼吸量を低下させることをストレスと考えると納得しやすいなぁと思いました。
「高標高=呼吸量低下」という流れで今回説明してしまってます。
これについて完全に正しいとは言い難いです。
こんな考え方もあるのかぐらいに留めていただけると助かります。